2016/07/13

2016年日本景観生態学会学術大会発表資料「開発を契機に放置林の生態系修復を試みた環境デザイン」 Report on a landscape design for restoration of ecosystem in an abandoned conifer forest by using a chance of development activities by a company




2016/07/09
日本景観生態学会学術大会発表スライド
Presentation-slides of the 2016 General Meeting of the Japan Association for Landscape Ecology


田賀陽介氏 (田賀意匠事務所) との共同発表「開発を契機に放置林の生態系修復を試みた環境デザイン」に用いたスライドに、補足説明分のスライドを加えて公開します。生態学的環境デザインや企業の社会貢献活動 (Corporate Social Responsibility: CSR) などの参考としていただける点がいくらかでもあれば、幸いに思います。

参照:
日本景観生態学会/  Japan Association for Landscape Ecology:
http://jale-japan.org/wp/

日本建築美術工芸協会|第9回 芦原義信賞 *建築家石原健氏と田賀陽介氏、および廣瀬共同受賞
http://www.aacajp.com/cms_prize/prize/ashihara09/


発表要旨:


1. 目的
自然公園内における企業研修施設の建築を機会として,企業の知的生産性向上を当地本来の質を持つ環境と景観の創出の上にめざせるよう計画し,放置林の生態系修復を基本に実施した環境デザインに関して技術報告を行う.わが国に環境デザインの景観生態学的実施方法が普及していないこと,および自然公園法の総則に自然の風景地の保護や利用の増進と合わせて生物多様性の確保が目的に挙げられているのに対して (第一条) これに則していると見なせる例が少ないことを問題視し,解決策を例示することを,本報告の目的とする.

2. 計画対象地
計画対象地は,神奈川県足柄下郡箱根町の箱根火山中央火口丘群の中で最大の神山西側斜面に位置する.約3千年前の神山の水蒸気爆発による山体崩壊に伴い流下した岩屑なだれ堆積物の北向き斜面,標高838~855m,敷地面積7875.20㎡,平均斜度12%,日最大1 時間降雨量の観測史上1~3位が96~80mmで年降水量の平均値も3538.5mmと気象庁全観測地点中6位,かつ集水面積が対象地面積の約1.5倍という条件下にあり,ヒノキ (Chamaecyparis obtusa) を主とする木材生産林が放置されていた.

3. 計画 *主に調査検討の課題設定について
日射量の少ない北向き斜面で降水量の多い当該地で土地利用形態を改めるためには,雨水と雪解け水の流下に際した減勢・浸透の検討,および林内の暗い放置林からの林相転換の検討が必要と考えられた.前者については,当地と周辺の地中・地表に存する安山岩質溶岩や安山岩を用いて施工された箱根旧街道石畳や一里塚に見られる水流の衝撃を緩和する技術などの調査を行った.後者については,対象地標高の前後,741m (防ヶ沢) ~1244m (早雲山) へ範囲を広げて神山西側斜面と周辺における植生の垂直分布を踏査により確認した.結果,同標高にある放置林での植生回復においてミズナラ (Quercus mongolica),カエデ属植物 (Acer) が優勢となる傾向が認められた.同属植物は,当該地にも成木と幼木を合わせ422個体が生育していた.

4. 設計
これらを踏まえ,放置林の生態系修復を基本に,ヒノキなど針葉樹は地域植生回復のために当初庇陰樹とするものを残して伐採し,カエデ属植物等の地域植生の構成種を保全あるいは施設建築範囲から移植する構想を立てた.加えて,施設建築範囲から掘り出した安山岩質溶岩や伐採木材を用いて,地域的伝統土木工法にならい集水範囲から流れ込む水を減勢し浸透させる石積み工や粗朶編柵工を施すことを考えた.地域植生の回復と伝統工法の応用を組み合わせた環境デザインは,開発主体となる企業の施設整備目的である当地固有の環境と景観を社員の心的解放と知的生産性向上に生かすことに適い,承認に至った.

5. 植生管理と今後の課題
設計は20061月から20084月に,施工は20077月から20095月にかけて実施し,竣工後は外来種草本植物の選択的除去等を行うなどの管理をしてきた.しかし,20154月下旬からの火山活動の活発化を受けて,気象庁は同年911日まで噴火警戒レベルを3 (入山規制) に設定し,当施設の利用管理も一時的に滞り,保全・移植木の樹下で生長していた実生を刈り払う措置がとられた箇所があり,一部で植生回復の工程を見直す必要が生じている.

出典:
「日本景観生態学会 第26回北海道大会 大会プログラム/ 講演要旨集」日本景観生態学会、2016年、28頁















参照: 環境省ウェブサイト|富士箱根伊豆国立公園 http://www.env.go.jp/park/fujihakone/index.html
































参照: 大日本印刷株式会社ウェブサイト|CSRの取り組み|DNPグループ生物多様性宣言 http://www.dnp.co.jp/csr/environment/theme11c.html