2015/08/26

仙台、震災後にパティ・スミスが "People Have The Power" を歌った街で   In Sendai, which city Patti Smith sang "People Have The Power" after the disaster



(English below)

私の専門職能である
ランドスケイプアーキテクチャー (Landscape architecture) は、
19世紀半ばのニューヨークで、
セントラルパークの整備を求める市民運動から生まれた。
同公園は、19世紀アメリカの民主的な偉大なしるしの一つと目されている (1)

私もまた、民主的な風景を実現したいと願う。
人々の人権と平等の尊重から生成される風景が見たいと願っている。


パティ・スミス (2) は、2011311日にマグニチュード9.0の地震と津波、
東京電力福島第一原発事故の被害に遭った仙台の小さなライブハウスで、
 “People Have The Power (3) ” を歌った。
惨事からおよそ110ヶ月後にあたる、2013122日の夜に。


201589日、この街で初めての大きなデモンストレイションが行われた。
集団的自衛権の名のもとに日本の軍事的役割を拡張する
解釈改憲に対して抗議するものだった。
デモは、学生グループSEALDs (自由と民主主義のための学生緊急行動) の地域機構
 SEALDs Tohoku (4) が主催した。
 597人が、戦災復興事業によって1946年からととのえられた、
緑豊かな並木道や公園に沿って行進した。
その風景は、まさしく私が見たかったものだった。


2015/08/09 17:01 錦町公園の脇を進むデモンストレイション参加者 Demonstrators walked past Nishikicho Park




2015/08/09 17:11 勾当台公園前 In front of Kotodai Park


2015/08/09 17:15 定禅寺通りを行く Walk on the Jozenji-dori Avenue
















































































パティ・スミスは2007年、彼女のアルバム“Twelve”の中で
ローリング・ストーンズの曲、 “Gimme Shelter (5) をカヴァーしていた。
私は今、その歌詞を思いださずにはいられない。

War, children, It's just a shot away (戦争は銃の一発しか離れていない/ 戦争は銃一発のすぐ向こうにある
しかし、こうもいえると彼らはうたう。
Love, sister, It's just a kiss away (キス一つで愛が芽生える/ 愛情のある小さなこと一つで平和がめざせる) (6)


私は後者の道を歩みたいと望む。
付録に、
安倍晋三首相が整備を進める「平和安保法制」に
私が反対する理由を示す。

 

Landscape architecture, my profession was born from a civic movement in which people demand for the construction of central park 
in the mid-19th century in New York City. 
And the park is regarded as “one of the grate hallmarks of democracy of nineteen century America (1) ”.

I also want to realize democratic landscapes. 
I want to see landscapes which based on respect for human rights and equality.


Patti Smith (2) sang “People have the power (3) ” in a small club of Sendai that was devastated by the magnitude 9.0 earthquake, tsunami and 
the TEPCO’s Fukushima Daiichi Nuclear Power Station accident on March 11, 2011. 
On the evening of January 22, 2013, one year and ten month after the disaster.


On August 9, 2015, the first huge demonstration march was held in the city to protest against constitutional changes 
that would expand Japan’s military role in a doctrine called collective self-defence. 
The demonstration was organized by members of the SEALDs (Students Emergency Action for Liberal Democracy-s) Tohoku, 
a student group in the Tohoku region (4)
597 people marched along leafy avenues and parks which restored after the war, 
since 1946 as the restoration in the post war period. 
The landscape was the certainly what I wanted to see.


2015/08/09 16:22 花京院緑地での抗議集会 Protest meeting in Kakyoin Park

























Patti smith covered The Rolling Stones song “Gimme Shelter (5) ” on her album “Twelve” in 2007. 
I cannot help remembering that lyrics now. 
War, children, It's just a shot away” but “Love, sister, It's just a kiss away (6)


I choose the later path. 
And I present the reason why I am opposed to Japanese Prime Minister Shinzo Abe’s  “security-related legislation” in appendix.



参照/ References:
(1) Official Website of New York City’s Central Park: http://www.centralparknyc.org/about/history.html
(2) patti smith official site: http://www.pattismith.net/intro.html
(3) Patti Smith and Fred “Sonic” Smith, People Have The Power, 1988: https://www.youtube.com/watch?v=pPR-HyGj2d0
      SEALDs: http://www.sealds.com/
(5) Mick Jagger and Keith Richards, Giimme Shelter, 1969: https://www.youtube.com/watch?v=8kl6q_9qZOs (Live, 1996)
(6) Peter BarakanによるInterFM “Barakan Morning” (2014/02/26) での詞の解説、
      およびアメリカの友人 Linda Ruswinkle との対話 (2014/02/27-3/02) を参考とした





付録/ Appendix (In Japanese)
私見「国際平和支援法案等の妥当性に関した検討」



1. 検討の目的
 
 内閣が2015514日に閣議決定し、翌15日に国会へ提出した平和安全法制整備法案 (自衛隊法など10の現行法の一括改正) 、および国際平和支援法案 (新規制定。前者と合わせて11件) からなる「平和安全法制 1 」の妥当性を検討する。筆者は法学や外交を専門としないが、これら法案が強制採決された衆議院平和安全法制特別委員会 2 での安倍晋三首相他の非論理的な答弁を中継で視て、その妥当性に疑問を抱いた。このことが検討の動機に当たる。検討は、新規制定が行われようとしている国際平和支援法案に主に着目して進める。

 法学や外交を専門としない筆者が、政権・与党の平和安全保障法制についてその妥当性を的確に断定できるとは考えない。しかし、以下に見てゆくように憲法研究者らが違憲性を指摘し、論理的に不十分と考えられる箇所があって、その重要性を看過することはできない。

 それゆえに、民主主義社会の一員であり、日本国憲法第12に「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」、同97条に「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。3 」と書かれることを知る一人として、本法制の廃案を求める「権利のための闘争 4 」に、筆者は加わることにした。



 下記の内容は、憲法研究者らの論考を可能なところまで読み、それらに拙い私見を合わせたものに過ぎませんが、自らの行動の証左として公開をいたします。

1 内閣官房|「平和安全法制」の概要   http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/gaiyou-heiwaanzenhousei.pdf


2 国立国会図書館|国会会議検索システム 2015/07/15 189回国会 (衆議院) 我が国及び国際社会の
  平和安全法制に関する特別委員会 22 http://sayusha.com/catalog/books/p=9784865281279c0032


3 佐藤幸治『世界史の中の日本国憲法 立憲主義の史的展開を踏まえて』左右社、2015年を参照
         http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/189/0298/18907150298022a.html 
    また、日本国憲法の制定に際しては、「占領軍がその原案を起草するに当り、自由民権論者の
       私擬憲法草案等を参考として起草された日本人有志の憲法研究会の草案から多くをとり入れている」。
       家永三郎『太平洋戦争』岩波書店、1968年、275頁。家永はこれを、憲法調査会『憲法制定の経過に
       関する小委員会報告書』(1964) 、佐藤達夫『日本国憲法成立史 第二巻』(有斐閣、1962) の
       参照のもと記述した


4 Rudolf von Jhering, Der Kampf ums Recht, Vortrag (講演) , Wien, 1872. 邦訳 イェーリング『権利のための
       のための闘争』村上淳一訳、岩波書店、1982 https://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/34/X/3401310.html



2. 国際平和支援法案の趣旨


 国際平和支援法案は、「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律 () 」の略称であり、本法案の趣旨はこの法律名に集約される。



3. 国際平和支援法案条文「目的」5 より


  第一章 総則 (目的)

    第一条 この法律は、国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために
    国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、かつ、我が国が国際社会の一
    員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの (以下「国際平和共同対処事態」とい
    う。) に際し、当該活動を行う諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等を行うことにより、国際社
    会の平和及び安全の確保に資することを目的とする。

5 自由民主党|国際平和支援法 案文 
    http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/prioritythemes/diplomacy/127725_01.pdf


検討 1
国際連合憲章 6 の参照と本法案の違憲性確認


 国際平和支援法案の目的前段に「国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動」のことが挙げられている。したがって、後段「当該活動を行う諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等」は、国際連合憲章第7章「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」第42条に「安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。」を想定していると考えられる。

 そして、自由民主党は国連憲章第7章第51条にある「個別的又は集団的自衛の固有の権利」を、201471日に行った憲法9条の解釈を変更して集団的自衛権の行使を可能とする閣議決定の根拠に挙げている。さらに、この決定に沿って平和安全法制の整備を進めてきた。

 しかし、わが国では日本国憲法第9条第1項で戦争の放棄を、第2項で戦力を保持せず国の交戦権を認めないことを規定している。ただし、憲法13条後段「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」を憲法9条の例外規定と解釈して、自衛のための必要最小限度の武力行使は認められると、従来の政府および有力な憲法学説においては考えられてきた 7 。他方、外国を防衛する義務を政府に課す規定は日本国憲法になく、したがって9条の例外は認められず、集団的自衛権の行使は憲法上許されないと結論されるという 8

 また、主権者である国民が憲法 (とりわけ73) を介して国に付託する権限が行政権と外交権だけで、軍事権は与えられないとの解釈が立つ (行政組織である防衛庁・自衛隊が日本に対する攻撃を排除する活動は防衛行政の範囲にとどまると説明) 一方 9 73条にある「外交関係の処理・条約締結等」に「軍事・行政組織編成権,その他の国家指導提出権」に関わる執政作用を構成する面が備わるとする学説が存在する 10 。前者によれば、集団的自衛権の行使 (外国の防衛) は防衛行政の規定範囲外として違憲に当たる。後者は国の軍事権に基づく「外交関係の処理」は憲法に認められると解釈する考え方であるが、9条と矛盾しよう。

 なお、政府・与党の平和安全法制整備に関した一連の動きを、日本のほとんどの憲法研究者が違憲と指摘している 11 ことも、立憲主義に照らして無視できるとは考えられない。
   
6 国際連合広報センター|国連憲章テキスト  http://www.unic.or.jp/info/un/charter/text_japanese/


7 国立国会図書館|国会会議検索システム 2015/07/13 189回国会 (衆議院) 我が国及び国際社会の
       平和安全法制に関する特別委員会公聴会 第1
       http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/189/0303/18907130303001a.html


8 同上。56とも公述人、木村草太首都大学東京法学系准教授の発言を参照


9 同上


10 石川健治「政府と行政」『法学教室』第245号、有斐閣、2001年、79頁。石村修「“外交権”の
         立憲主義的統制」『専修ロージャーナル』第10巻、専修大学法科大学院、2014年、21-45頁より重引


11 安全保障関連法案に反対する学者の会ウェブサイト  http://anti-security-related-bill.jp/


検討 2
本法案および関連する重要影響事態安全確保法案の確認

国連安保理決議を得ない同盟国の単独的な武力行使の前例について


 本法案の違憲性とは別の観点から、国際平和支援法案の目的前段に「国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動」と挙げられていることに再びふれる。同盟国アメリカとの集団的自衛権行使を念頭に置くと、次に文を引用するような事態が問題視される。「2003年のイラク戦争に見られたように、アメリカ及びイギリスが多数の加盟国の反対を無視し、安保理決議を得ずに実施した単独的な武力行使 (後略) 12 」。それに対応して、日本政府は同年12月より20092月まで自衛隊イラク派遣を行っていたが、2008417日に名古屋高等裁判所判決の傍論の中でその違憲性が指摘されている 13

 このように、国連加盟国でありながら国連憲章に反した行動を同盟国がとる場合に関した記載は、本法案条文にない。ただし、平和安全法制整備法案14 において「周辺事態安全確保法」が「重要影響事態安全確保法」に改正される中で、「存立危機事態 (我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう。) 15 」が設定されている。同盟国が起こした上記の前例から考えて、かえって日本に災禍が及ぶ可能性が危ぶまれる16
  
12 西浦直子「国連憲章第7章下における武力行使授権の問題点」『国際基督教大学学報 II-B  s社会科学
         ジャーナル』第68巻、2009年、73-91   http://icussri.org/journal/jss-no68/ かつ「ブッシュ政権が
         先制攻撃の理由に掲げた大量破壊兵器が、実際にはイラクには存在しなかった」。野崎久和「日本の
         イラク戦争支持の問題点 (1) 」『季刊北海学園大学経済論集』第564号、2009年、139-153
13 川口創 (自衛隊イラク派兵差止訴訟弁護団事務局長) 「名古屋高裁イラク訴訟違憲判決資料室」 
14 「我が国及び国際社会の平和及び安全に資するための自衛隊法の一部を改正するための法律 
15 同法案第五条、資料 (PDF) 61-62
16 砂川事件で駐留米軍を違憲とする「地裁判決があった翌日早朝、米マッカーサー大使が、
         藤山愛一郎外務大臣を訪れ、跳躍上告を要請 (中略) その後大使は、田中最高裁長官と会って
         裁判の見通しを聞きだし」た。これは裁判所法第75条 (訴訟の秘密) に反する。本件は195912月14日に
         最高裁判所で破棄された。これらの事実は米政府解禁文書をもとに明らかにされた。
         布川玲子、新原昭治編著『砂川事件と田中最高裁長官−米解禁文書が明らかにした日本の司法』
         日本評論社、2013、111149-150頁」 http://www.nippyo.co.jp/book/6360.html 加えて、「日本国と
         アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における
         合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律」
   http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/strsearch.cgi   3項に「前項の (合衆国のために又は合衆国の管理の下に、
         公の目的で運航される航空機及び国連軍協定第四条第一項に規定する国際連合の軍隊によって、
         同軍隊のために又は同軍隊の管理の下に、同協定の目的を達成するために運航される。筆者注) 
         航空機並びにこれらの航空機に乗り込んでその運航に従事する者については、航空法第六章の規定は、
         法令で定めるものを除き、適用しない」とある。同法同章には、たとえば「最低安全高度」を規定した
         第81条が含まれるなど、その不平等性が問題視される。



4. 国際平和支援法案条文「基本原則」より


  第一章 総則 (基本原則)

    2 対応措置の実施は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない。

    3 協力支援活動及び捜索救助活動は、現に戦闘行為 (国際的な武力紛争の一環として行われる

   人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。以下同じ。) が行われている現場では

      実施しないものとする。ただし、第八条第六項の規定により行われる捜索救助活動については、

      この限りではない。



検討

イラク特措法と自衛隊イラク派兵からの類推


 「協力支援活動 (諸外国の軍隊に対する、自衛隊に属する物品の提供及び自衛隊による役務の提供 17 ) 」は「戦闘行為が行われている現場では実施しない」とされる。参考に、先の自衛隊イラク派兵時における状況を確かめたい。前述の名古屋高等裁判所判決要旨から関連する箇所を引用する 18 。「バグダッドは (中略) アメリカ軍がシーア派及びスンニ派の両武装勢力を標的に多数回の掃討作戦を展開し、これに武装勢力が相応の兵力をもって対抗し、双方及び一般市民に多数の犠牲者を続出させている地域であるから、まさに国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為が現に行われている地域というべきであって、イラク特措法 19 にいう“戦闘地域”に該当するものと認められる」。「しかるところ、航空自衛隊は、アメリカの要請を受け (中略) アメリカ軍との調整の上で、バグダッド空港への空輸活動を行い (中略) 定期的にクウェートのアリ・アルサレム空港からバグダッド空港へ武装した多国籍軍の兵員を輸送していることが認められる。このような航空自衛隊の空輸活動は、主としてイラク特措法上の安全確保支援活動の名目で行われ、それ自体は武力の行使に該当しないものであるとしても、現代戦において輸送等の補給活動もまた戦闘行為の重要な要素であるといえることを考慮すれば、多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支援を行っているものということができる。したがって、(中略) 他国による武力行使と一体化した行動であって、自らも武力の行使を行ったとの評価を受けざるを得ない行動であるということができる。」「よって、現在イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は、政府と同じ憲法解釈に立ち、イラク特措法を合憲とした場合であっても、武力行使を禁止したイラク特措法22項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し、かつ憲法91項に違反する活動を含んでいることが認められる」。

 念のため、イラク特措法の基本原則前段を確認する。第一章第2項は、位置づけと文言ともに国際平和支援法案と同一である。



  第一章 総則 (基本原則)

    2 対応措置の実施は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない。

    3 対応措置については、我が国領域及び現に戦闘行為 (国際的な武力紛争の一環として行われる
      人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。以下同じ。) が行われておらず、かつ


      そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる
      次に掲げる地域において実施するものとする。(後略)


 法学や外交を専門としない者として、筆者は、ここで任意に名古屋高等裁判所の上記判決要旨「現代戦において輸送等の補給活動もまた戦闘行為の重要な要素」「多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支援」「他国による武力行使と一体化した行動であって、自らも武力の行使を行ったとの評価を受けざるを得ない」を、この検討を終えるにあたっての判断の参考とする。上記の日本政府による前例、事実や、司法における捉え方に照らし、また主権者の一人として慎重に考えるならば、国際平和支援法案は、違憲性とは別に、自衛隊を他国による戦闘行為、すなわち戦争の一端に参加させる可能性を内在し、さらには日本への武力攻撃事態が発生する可能性が危惧されると、筆者は私見を整理するものである。
   
17 本法案第三条第一項および第二項を参照
     *18 名古屋高裁イラク訴訟違憲判決資料室|判決理由の要旨 
19 法令データ提供システム|イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する
         特別措置法
(基本原則) 2条第3
                http://law.e-gov.go.jp/haishi/H15HO137.html



5. まとめ

  
 本法案の目的に、国際連合憲章を基本とする旨が明記される。検討1では、同憲章と日本国憲法第9条の不整合に関した議論が不足したままで、違憲性が残る点を見てきた。検討2では、わが国の同盟国アメリカがイギリスと安保理決議を得ずに実施した単独的な武力行使、イラク戦争に類する事態が起きた場合に、日本は自国の危機回避や国益保持のためどう適切に対処するかに関した十分な検討にもとづく記述が、国際平和支援法案と重要影響事態安全確保法案のそれぞれの案文に見当たらないことを確認した。上記の前例がある以上、それに類することが再び起こされてわが国に危機が波及する可能性があることを想定しておく必要がある。このことに照らして、両法案にはわが国の安全保障にとって不利な面が含まれると考えざるをえない。

 本法案の基本原則については、政府・与党の「非戦闘行為」「非戦闘地域」に関した認識が、現代国際社会における戦闘行為、戦闘地域に含まれるものであるとの高等裁判所による司法判例をもとに検討した。その結果として、筆者は、国際平和支援法案により自衛隊が他国による戦闘行為、戦争の一端に参加させられる可能性と、その先の日本への武力攻撃事態の発生を懸念する。

 本法案を含む平和安全法制は「戦争法案」とも呼ばれるが、ここまで見てきたように日本が戦争を主体的に開始する内容ではないものの他国の戦争への参加を可能とする法案であり、そうした受け止め方を間違いとはいえない。ただしそれ以前に、平和安全法制の違憲性は取り除かれなければならない。また、「我が国を取り巻く安全保障環境の変化 20 」への対応は確かに求められるが、これらの法案はその案文を読む限り前例や裁判例から容易に類推できる案件の解決を含むものと認められない。



 以上、法学や外交を専門としない、しかし憲法に規定された権利を守ろうと正当に考える一市民の私見を述べました。他にもまだ按ずることはありますが、本法案、日本国憲法、国連憲章、および関連法規や関連違憲判決事例を照合しながら、無理なく行えるところまでを検討してみています。

 筆者としては、わが国を取り巻く安全保障環境の変化に適切に対応しようとしているとは評価しにくい法案作成作業や、冒頭に挙げた非論理的で多数決しか議決の根拠がないような衆議院平和安全法制特別委員会その他の国会審議にかかわる政党交付金、議員歳費、国会運営必要経費などに関した国費支出を厳しく見直して欲しいとさえ思います 21
   
20 自由民主党|平和安全法制整備法 案文 
     http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/anbun-heiwaanzenhouseiseibihou.pdf 88頁「理由」より引用


21 財務省|報道発表資料|国債及び借入金並びに政府保証財務現在高 (平成273月末現在) 
               国債や借入金を合計した「国の借金」は過去最大の10533572億円に上る。




備考 日本による専守防衛の内容と安全保障のための努力について


 日本は、個別的自衛権を持つ。防衛庁・自衛隊が日本に対する攻撃を排除する活動は、日本の領土、領海、領空、および周辺の公海と公空で展開が可能である。これは、防衛行政の範囲と位置づけられる。 


 ただし、安全保障は上記の防衛力の保持や、既にある日米同盟を地域の安定に活用しようと志向することなどを含めた、武力攻撃発生以前のさまざまな外交努力に多くを委ねられる*22 。その中には民間外交も含まれ、このことも重視すべきであると考えられる。


22 数多くあるうちの一例を示す。外務省|世界に貢献する日本のODA 
                 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/pamphlet/oda_50/seika1.html